岡山市に位置する福田海本部の境内に現れる、高さ数メートルにも及ぶ色彩豊かな輪の山。その名も「鼻ぐり塚」。一瞬、現代アートかと思ってしまうような光景ですが、そこには食肉となった家畜たちの魂を弔う思いが込められています。詳しい様子を写真と共にお伝えします。

鼻ぐり塚は家畜の魂を弔うという全国的に珍しい供養塚。鼻ぐり塚のすぐ近く(徒歩5分)には山陽道屈指の大社、吉備津神社が位置しています。
非常に入りづらいが、誰でも拝観OK

鼻ぐり塚は岡山県岡山市北区吉備津にある宗教法人「福田海本部」の境内にある供養塚です。聞きなれない宗教法人で、拝観者も少ないため「信者以外が入って良いの?」と不安な気持ちになりますが、誰でも拝観可能です。
明治期に創設された修験道系新宗教。福田海を開いた教祖・中山通幽は食べられたり農作業で使役したりして人間のために一生を尽くしてきた家畜を供養する目的で、1925年(大正14)に鼻ぐり塚を発願しました。
中山通幽は本サイトでも紹介している、京都にある化野念仏寺の無縁仏を供養した人物でもあります。>>>遺体を空気に晒して自然に還す風葬の地【化野念仏寺】

「鼻ぐり塚へお参りの方は護摩木料一人当たり100円を納めてお入りください」という看板のとおりに無人の受付で料金を納め、境内の奥に進みます。石畳に沿い裏手に回ると鼻ぐり塚が現れました。
色とりどりの鼻輪が放つ異様な雰囲気と鼻ぐり塚の様子

さまざまなプラスチック性の輪っかが3〜4メートルほど積み重なった鼻ぐり塚。遠目で見ると大盛りのチェダーチーズのようにこんもりと鼻ぐりが堆積されており、静かながらも独特の存在感を放っています。
鼻ぐりとは主に飼養管理のために牛の鼻に取り付ける輪のことです。

この不思議な塚は、食肉となった牛たちの魂を弔うために全国から奉納された鼻輪(鼻ぐり)を供養するもの。現在でも年間数万個のペースで鼻輪が積まれ続けており、総量は700万個を超えます。
現世に残る牛たちの生きた証

鼻ぐり塚に近づいてみると、その数の多さに驚きます。田畑の耕作に従事した牛、乳牛として育ち最後には解体され肉となり革となった牛・・・色とりどりの鼻ぐりは牛たちの生きた唯一の証であり、人間との深い関わりを物語っています。

命を頂いているということを意識はしていましたが、鼻ぐり塚はまた別の形でその事実を感じさせます。食に対する感謝の念を深く考えさせられる特別な場所です。
牛と豚のブロンズ像


鼻ぐり塚は家畜全体を供養していることから牛だけでなく、豚のブロンズ像も並んでいます。牛はお寺でよく見かけるタイプの普通の像ですが、豚の像は見たことがない。豚の表情がアニメのキャラクター調にデフォルメされており、もの悲しげな表情に映ります。
毎年4月の第3日曜には畜魂祭が行われます。

観音菩薩の顔が怒っている
鼻ぐり塚の正面に馬頭観世音菩薩が鎮座しています。女性的で優しい表情のイメージがある観音像とは異なり、おでこの上に馬の頭を乗せ、憤怒の形相で合掌をしています。馬頭観世音菩薩は怒りの激しさによって苦悩や諸悪を粉砕し、馬が草を食べるように煩悩を食べ尽くし災難を取り除くとされています。

横穴式石室の古墳に鼻ぐりを積んでいる

馬頭観世音菩薩の背後にある開口部は横穴式石室の入り口です。つまり、鼻ぐり塚はもとは古墳であり、その墳丘上に鼻輪が積まれる形式で今の姿に至っています。石室内には真鍮製の鼻輪を溶かして作った阿弥陀の宝号を刻印した金属板が複数安置されています。
鼻ぐり塚がウルトラマンAに登場
鼻ぐり塚は、1975年放送の特撮テレビドラマ「ウルトラマンA」第41話「バルキリー星人の呪い」に登場したことで、全国的に知られるようになりました。
青年が鼻ぐりを盗んでそのため呪いで超獣カウラになるというストーリーです。最後はウルトラマンAが登場して超獣カウラの鼻ぐりを外し、超獣カウラは無事に元の青年の姿に戻って終了という内容。
アクセス
- 所在地:〒701-1341 岡山県岡山市北区吉備津795
- 時間:不明ですが、09時00分 ~ 17時00分に行くと良いです。
- 電話番号:086-287-3008(福田海本部)
- 駐車場:あり
- 料金:護摩木料100円
- JR吉備津駅から徒歩約15分、山陽自動車道岡山ICから約20分