京都府の南端、緑豊かな南山城村に韓国様式の寺院が静かに佇んでいます。その名は「高麗寺」。1975年に建立されたこの寺は極彩色豊かな本堂や、約3万坪の広大な敷地に広がる「民族墓地」など、日本にいながらにして異国情緒を味わえる特別な場所。古くから、日本で暮らす韓国人や在日の方々にとって、故郷を思い祈りを捧げる**“心の拠り所”**となってきました。
交通の便が良いとは言えない山奥にあるため、長らく知る人ぞ知る穴場的な存在でしたが、近年、この高麗寺が大きな注目を集めています。その理由は、2022年2月から、「土葬」による埋葬の受け入れを開始したからです。

なぜ今、土葬なのか?そして、この寺院が持つ本当の魅力とは?今回は、そんな高麗寺の美しい風景と現代社会における新たな役割を豊富な写真と共に詳しくご紹介します。
- 京都の秘境へ!『ひぐらし』の舞台を思わせる山道を越え、高麗寺へ
- 本堂を彩る極彩色の韓国伝統美「丹青(ダンチョン)」と陰陽五行の思想
- 【高麗寺】本堂内部は電話予約が必須!金ピカ仏像とハングル提灯が彩る荘厳な異国空間
- 絶景の祈祷所「三聖閣」へ!ハングルの石碑が並ぶ急坂と3県を見渡す大パノラマ
- 火葬率99.9%の日本で…高まる「土葬」の需要と、立ちはだかる壁
- 「差別された人間が差別したらあかん」– 高麗寺が“国籍・宗派不問”の土葬を始めた深い理由
- モスクや教会の建設構想も!?「高麗寺国際霊園土葬墓地」の現在と壮大な未来
- なぜ南山城村で可能だったのか?地域に今も残る「土葬文化」という背景
- 高麗寺の隠れ聖域「龍王閣」へ!白衣観音の脇道、鬱蒼とした林を抜けた先にある神秘の渓流
- アクセス
- まとめ
京都の秘境へ!『ひぐらし』の舞台を思わせる山道を越え、高麗寺へ

高麗寺が佇む南山城村は、京都府の最東端。三重、奈良、滋賀の三県と境を接する“辺境の地”とも言える場所にあります。車一台がようやく通れるほどの細い山道を進み、どこか懐かしくもミステリアスな、人気アニメ『ひぐらしのなく頃に』の舞台を彷彿とさせるような山中の集落を抜けていくと、その先に高麗寺はあります。まず私たちを迎えてくれるのは、その規模に驚くほど大きな駐車場。そして、そこから続く長い階段を登りきると日本の風景から一転、荘厳な韓国様式の本堂が目の前に姿を現します。
本堂を彩る極彩色の韓国伝統美「丹青(ダンチョン)」と陰陽五行の思想

高麗寺の本堂は伝統的な韓民族の建築様式で建てられており見る者の目を奪う極彩色の鮮やかな装飾が特徴的です。この華麗な彩りは**「丹青(ダンチョン)」**と呼ばれる、韓国の伝統的な建築彩色技法。
「丹青」の基本となるのは、青・赤・黄・白・黒の5色。これは古代中国から伝わる陰陽五行の思想が元になっており、**青は木(春)、赤は火(夏)、黄は土(土用)、白は金(秋)、黒は水(冬)**を象徴しています。宇宙を構成するこれらの要素と色彩で彩られた本堂は、まさに圧巻の一言。日本の寺社とは一味も二味も違う、大陸の文化と哲学が息づく見事な建築美です。

【高麗寺】本堂内部は電話予約が必須!金ピカ仏像とハングル提灯が彩る荘厳な異国空間

高麗寺の本堂は入り口は常に開かれているわけではありません。内部を拝観するには事前の電話申し込みが必要となります。公式ホームページにも記載されている指定の番号(090-2704-3558 崔 炳潤様)へ電話をかけ、名前、電話番号、国籍を伝えると、本堂への入口の場所や鍵の開け方を教えていただけます。

拝観当日の電話連絡でも快く対応していただけました。

そうして足を踏み入れた本堂内部は、まさに圧巻の異世界。美しい丹青で彩られた空間にハングル語が記された無数の提灯や紙細工が揺れ、金ピカに輝く仏像や仏具が荘厳な光を放っていました。日本の寺院が持つ“わびさび”の静かな美しさとは全く異なる、きらびやかで力強い韓国ならではの様式美に心を奪われます。
絶景の祈祷所「三聖閣」へ!ハングルの石碑が並ぶ急坂と3県を見渡す大パノラマ

きらびやかな本堂を出て、左手にある鐘楼の先へと進むと、今度は山の上にある祈祷所「三聖閣」へと続く坂道が現れます。この参道の両脇にはハングル文字で奉納者の名前などが刻まれた石碑がずらりと並び、日本にいながらにしてより一層深い異国情緒を感じさせてくれます。
坂道はかなり勾配がキツく息が上がりますが、登りきった先には、なんと滋賀・三重・奈良の3県を見渡すことができる雄大なパノラマビューが広がっています。
三聖閣内部に立体的に施された見事な龍の彩色画も見応え十分。(境内のより詳しい情報は、高麗寺の公式ホームページ:https://www.kouraiji.com でも確認できます。)

火葬率99.9%の日本で…高まる「土葬」の需要と、立ちはだかる壁
現在、日本の火葬普及率は99.9%と世界でも突出して高い水準にあります(2021年、厚生労働省報告)。実は、日本で土葬は法律で禁止されているわけではありません。しかし、多くの墓地がそれぞれの管理規則で土葬を制限しているため、日本国内で土葬を望む場合、それを受け入れてくれるごく僅かな墓地を探し出すしかありません。
一方で、近年、日本で暮らす外国人の増加に伴う多国籍・多宗教化により、宗教上の理由で火葬が認められないイスラム教徒やカトリック教徒の方々が日本で増加しており、今後**「土葬」のできる場所への需要が高まっていく**と予想されています。
「差別された人間が差別したらあかん」– 高麗寺が“国籍・宗派不問”の土葬を始めた深い理由
そんな現代日本の埋葬事情に一石を投じる動きが京都府南山城村の「高麗寺」で始まりました。高麗寺は、2022年2月から、国籍、民族、そして宗派の一切を問わず、土葬の受け入れを開始したのです。その中心となったのが、寺の代表役員を務める崔柄潤(サイ・ヘイジュン)さん。在日韓国人2世として、ご自身も様々な経験をされてきた崔さんは、その想いをこう語っています。「差別された人間が差別をしたらあかん。人間死んだら国籍も民族も関係ない」この力強い言葉に、高麗寺の開かれた精神のすべてが込められていると言えるのではないでしょうか。(参照:Yahoo! JAPAN 死んだら国籍も民族も関係ない」 99.99%が火葬される日本で、京都の寺が土葬を受け入れる理由とは」2023/2/19記事)
モスクや教会の建設構想も!?「高麗寺国際霊園土葬墓地」の現在と壮大な未来

この取り組みのもと高麗寺の墓地は「高麗寺国際霊園土葬墓地」と名付けられました。2022年8月には、イスラム教の宗教法人であるイスラミックリサーチセンタージャパン(IRCJ)と土葬墓地の使用権に関する契約を結ぶなど、具体的な歩みを進めています。高麗寺が持つ広大な土地を活かし、土葬墓地は今後さらに拡張される予定。そして、将来的には敷地内にイスラム教のモスクやキリスト教の教会などを建設する構想もあるのだとか。
なぜ南山城村で可能だったのか?地域に今も残る「土葬文化」という背景
土葬を条例で禁止する自治体も少なくない中、なぜこの南山城村で高麗寺の先進的な取り組みは受け入れられたのでしょうか。その背景にはこの地域に古くから土葬の文化が根強く残っていたという事実が大きく関係しています。実際に、2017年にも村では一般の方の土葬が行われた実績があるのです。
高麗寺の土葬墓地がスムーズに開設できたのは、こうした地域文化への深い理解と、多様性を受け入れる土壌があったからこそと言えるでしょう。国内の埋葬方法や南山城村の文化については教育系YouTubeチャンネル「地理ふしぎ発見【ゆっくり解説】」でも、とても分かりやすく解説されています。
高麗寺の隠れ聖域「龍王閣」へ!白衣観音の脇道、鬱蒼とした林を抜けた先にある神秘の渓流

高麗寺には本堂や土葬墓地の他にもう一つ、見逃せないエリアがあります。それが、境内の入口近くに立つ、高さ約10メートルの巨大な「白衣観音」像を正面に見て右手へと下っていく小道の先にある**「龍王閣」**です。「本当にこの先に何かあるの…?」と、少し心細くなるような林道を進んでいくと、そのお堂は静かに姿を現します。
龍王閣自体は、本堂よりは小ぶりな造りですが、その目の前を流れる川の光景が必見。まるで自然が創り出したウォータースライダーのように、滑らかな一枚岩の上を清らかな水が勢いよく滑り落ち、その岩肌をくり抜く形で石仏たちが静かに安置されているのです。この、神秘的でダイナミックな風景は一見の価値ありです。

おすすめスポット
【飛行神社】航空安全、ゴルフ上達のご利益がある京都府八幡市の神社(御朱印も特徴的)
アクセス
住所: 〒619-1401 京都府相楽郡南山城村童仙房簀子橋13−番地
詳しい場所をグーグルマップで確認する
電話:0743-93-0843
駐車場あり
公式HP https://www.kouraiji.com
高麗寺国際霊園土葬墓地公式HP https://www.dosoukyoto.com
まとめ
高麗寺──それは、京都府の最東端、南山城村の山奥で出会った、**驚きと発見に満ちた“もう一つの韓国”**であり、そして現代日本における多様性の在り方を問いかける、非常に重要な場所でした。『ひぐらしのなく頃に』の舞台を思わせるような山道を抜けた先に突如現れる、極彩色の美しい本堂。電話一本でその荘厳な内部へと招き入れられ、輝く丹青や仏像に圧倒される。ハングルの石碑が並ぶ急坂を登れば、そこには3県を見渡す大パノラマが…。そして、その全てが、日本で暮らす韓国人や在日の方々の**“心の拠り所”として、また近年では国籍や宗派を問わず“終の棲家”としての土葬を受け入れる場所**として、深い意味を持って存在していることに気づかされます。「差別された人間が差別をしたらあかん。人間死んだら国籍も民族も関係ない」という代表役員・崔さんの力強い言葉は、この寺院がただ美しいだけでなく、現代社会に必要不可欠なメッセージを発信する、力強い祈りの場であることを教えてくれました。高麗寺は、訪れる者に多くのことを語りかけてきます。あなたも、この異国情緒あふれる京都の秘境で、美しい風景と、そこに込められた国境や宗教を超えた深い想いに触れてみませんか。きっと、単なる観光では決して得られない、特別な何かを感じ取ることができるでしょう。最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。


