霊を自分の体に憑依させ、この世の人々と語らうことのできる「イタコ」。特に恐山のイタコが有名で、全国的に知名度が高いのではないでしょうか。しかし、私は疑っています。イタコが「演技しているんじゃないの」と・・・!!
「イタコの嘘を見破ってやる」という気持ちで、イタコの口寄せをこの目で確かめてきました。口寄せを体験し、感じたことや考えたことなどをお伝えします。
祭事期間に合わせイタコの口寄せを体験しましょう
恐山に行けば必ずイタコに会える訳ではありません。恐山でイタコと会える確率が高いのは、主に以下2つの祭事期間です。
・「恐山大祭」7月20日〜24日
・「秋詣祭」10月8日〜10日
私は恐山大祭の日に合わせて訪問しました。

恐山の催しがない日にもイタコの口寄せが行われている場合もあります。詳しいスケジュールを確認したい場合は、複数人存在する各イタコのHP等で確認する必要があります。
最後のイタコ 松田広子のオフィシャルホームページ https://www.itako.net
私がお会いしたイタコとはまた別の方です。
イタコの口寄せの体験記

「青いテントの中でイタコが口寄せをしている」と口コミ情報を見て訪問しましたが、この日は天候が優れないため、恐山入って直ぐの休憩所で口寄せが行われていました。

休憩所は、畳敷きの大広間で古い公民館のような雰囲気。その一角には、DIYで作られたと思われる簡素な仕切りとビニールカーテンで区切られた空間が存在し、その中でイタコの口寄せが行われていました。イタコの口寄せを目掛け沢山の人々で長蛇の列が形成され、独特の緊迫感が漂っています。
イタコの様子

長い待ち時間を経て、ようやくイタコの姿を拝見することができました。
法被をまとった高齢の女性が大きな数珠を持ち、次々と訪れる人々が希望する故人を口寄せする様子は、イタコに懐疑的な私から見てもかなり神秘的に映ります。
イタコの周囲には、故人が生前好んでいたであろうジュースやお菓子など、様々な供え物が並べられており、故人を思う人々の気持ちがひしひしと感じられました。特に印象的だったのは、口寄せを依頼した人々が涙を拭ったであろう、ティッシュのゴミ山。口寄せが終わった後の、人々はそれはもう本当に嬉しそうな顔をしていました。
いよいよ私の番になりました。「よろしくお願いします」と挨拶をして間仕切りされたスペース内に入る。沢山の人がここに座ったのでしょう。イタコの前の畳が極端にすり減っていて、驚きました。
並んでいる最中、他の人たちの口寄せを観察していましたが、イタコから「それはできません」と断られている人もいました。
いよいよイタコと対面

イタコから誰を口寄せしたいのか、命日はいつかという2つの質問を受けました。亡くなった祖父に「今幸せに生きれているのはじいちゃんのおかげだよ」とお礼を言いたいと伝えると「静かになったら話し掛けてください」と返答されました。いよいよ始まる・・・!
正座をしたイタコが背中を丸め、動物の牙や骨がついた通常の10倍はあろう長さの数珠を手のひらで揉むように鳴らしながら、身体をユラユラ揺らし始める。「極楽の~」「花の月夜の」等の言葉が入った歌念仏を唱え、数珠を鳴らす。
ジャカジャカジャカ
段々とトランス状態に入っている様子。数珠のリズムがさらに高まったと思ったらスンと歌が終わる。静寂。そして体がビクんと動く。どうやら口寄せ成功のようだ。
果たして第一声は・・・??唾をごくりと飲み、前屈になってその言葉を待っていると「孫や元気にしていたかい??」
ズコー!!孫を孫と呼ぶかね!?普通、名前で呼ぶやろ。返答せずにいると「良い人を見つけたね。お母さんから聞いているよ」と話が始まる。私が身に付けている結婚指輪から、結婚していることを推測したのかな。私は「そうだよ。久しぶり」と返答しました。しかし会話は弾まない。なにを話せば良いかわからないからだ。
「ジャカ」とイタコが数珠を鳴らす。
「孫と会えて嬉しい」「身体に気をつけてね」等と話を続けてはくれるが「俺も嬉しい」「元気でやってるよ」ぐらいの言葉しか返せない。
「ジャカジャカ」数珠を鳴らす間隔が徐々に短くなっていく。後から気づいたのですが、この時折鳴らす数珠の音は終わりまでのカウントダウンを示す物なのである。会話が弾まなくなったタイミングで「ジャカジャカジャカ」。また「花の月夜の〜」と歌が始まり、最後にはイタコが意識を取り戻し終わってしまった。4000円を支払いお辞儀をして終了。体験としては面白かった。無事祖父と会えて良かったとは思う。
口寄せの料金は決まっていませんが、4000円程度が相場の料金です。
イタコの口寄せを終えての感想
イタコをとおして故人に会いにきた何十人の会話やその様子を見ていて感じたことがあります。それは目の前のイタコに会いたい人が本当に憑依しているかどうかは関係がないということです。
「身体に気を付けて」「足下に気を付けるんだよ」等と当たり障りのないことしか話さないイタコを前にして泣いてすがり付く人々。イタコが故人を口寄せをしているというよりも、訪れた人たちがイタコに故人を映し出しているといった様子の方が強いように感じました。
「自分の息子に最後のお別れを言いたい」「亡くなった妻にまた会いたい」等と話す遺族達。その思いは想像を絶する物があるはずだ。そんな思いを解決できるのなら神秘的な物だとしても、本州最果ての恐山に行く必要があるにしても、何かにすがりたいと思う心情には激しく共感ができる。イタコは現代の所で言うカウンセラー的要素を含んだ存在なのかもしれない。「イタコの嘘を見破ってやる」と息巻いて訪問しましたが、イタコの口寄せが本当か嘘かなんてそこまで重要ではないことに気が付きました。
恐山の見どころ
恐山はイタコの口寄せだけでなく、霊場としての厳かな雰囲気と雄大な自然が織りなす独特の景観も魅力的です。以下ご紹介します。
恐山の温泉は必見

恐山の入り口を抜けると、硫黄の匂いや辺りから噴き出た硫化水素がもくもくと立ち込めています。
しばらく進むと「男湯」「女湯」と示された小屋が2つあり、中で温泉に浸かることができます。温泉はエメラルドブルーの色をしていて、硫黄の香りが強く、まさに秘湯といった感じでした。お湯につかると、体の芯から温まり、ポカポカ感が長時間続きます。少し熱めのお湯ですが、それがまた良い。脱衣所はありますが、シャワーがないので、蛇口から流れ出る冷水で体を洗う必要があります。


地獄と呼ぶにふさわしい風景

さらに境内を進むと岩がゴツゴツと積み重なった荒涼とした風景が広がります。大地が息をするように、至る所から噴き出す硫黄の煙りが鼻を刺激し、まるで地獄絵図の一場面を切り取ったかのようです。
所々に見られる風車は幼くして亡くなった子どもたちの霊を慰めるために立てられています。


周囲に噴き出ている煙は可燃性です。線香やろうそく、タバコに引火する恐れがあるため、所定の場所以外での使用は禁止されています。

美しすぎて不気味な宇曽利山湖

さらに境内を進むと「宇曽利山湖」に到着します。エメラルドグリーンに輝く湖面は、鮮烈的な美しさを放っており周囲を囲む岩山とのコントラストが、まるで生と死の境目を見ているかのようです。美しすぎて不気味ささえあります。

宇曽利山湖はカルデラ湖です。
カルデラ湖とは大きな火山噴火によって、地下のマグマが大量に噴出し、空洞になった部分が陥没してできた湖です。
宇曽利山湖はアイヌ語で窪んだ土地を意味する「ウシュロ」が転じて、うそり山、さらに転じて恐山と呼ばれるようになったと言う説がある。他にもイタコの語源はアイヌ語の「イタク(語る)」と言う説もあります。

本当にあったんだ「三途の川」

敷地外ではありますが恐山駐車場までの道中にある「三途の川」も合わせて訪問したい。この三途の川はあの世と現世を隔てるという言い伝えのある、あの「三途の川」です。三途の川は宇曽利山湖と繋がっています。車で行くと通り過ぎてしまうような場所にあるため、注意しましょう。
三途の川をGoogleマップで確認する。https://maps.app.goo.gl/bNLqBsrRFDF6Fxhi6


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アクセス
住所:青森県むつ市大字田名部字宇曽利山3-2
TEL:0175-22-3825
営業時間:午前6時〜午後6時間で開山
毎年5月1日〜10月31日の間で開山
料金:個人大人500円/人 小学・中学生200円/人
駐車場有(無料)
参考文献
佐藤健寿『奇界遺産3』株式会社エクスナレッジ 2021年
佐藤健寿『世界不思議地図THEWONDER MAPS』朝日新聞出版 2018年
下北半島ナビhttps://simokita.org/sight/osore/
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